当プロジェクトは、人為活動に由来する有害な窒素化合物の無害化・資源化を実現するための「革新的な窒素循環技術」の確立を目指しています。産業・生活活動の結果発生する排ガス、廃水には、有害な窒素化合物が含まれています。現在、その無害化に大量なエネルギーを消費しており、十分な処理がなされない場合もあります。プラネタリーバウンダリーの議論では、窒素化合物はCO2やリン等以上に、その限界を大きく超えており、環境汚染の深刻な課題となっています。私たちは、「人間が利用できるアンモニア量を大きく減らすことなく窒素化合物排出量を削減する方法を確立」するため、排ガス中NOx・廃水中窒素化合物を、アンモニア資源として利用できる形態に変換する技術を確立します。この技術により、排ガス・廃水中窒素化合物の環境排出、処理に要するエネルギー消費を共に大きく改善することが期待されます。
排ガスについては、NOxを環境汚染物質として無害化後に大気放出するのではなく、「NOxを有価資源であるNH3に変換するNTA(NOx to Ammonia)変換技術」を実現を目指します。アンモニア変換率50%の達成により、選択式触媒還元において、還元用アンモニアを投入することなく、残存NOx除去が化学量論的に可能となります。更に、NTA転換率が50%を超えることにより、ほぼ完全にNOx除去した上で、余剰NH3を別用途へ活用できるようになります。廃水については、NH4+に加え、窒素成分の大部分を占める有機性の窒素化合物(有機態窒素)もアンモニア資源として変換・回収するため、「NH4+変換技術」と「超省エネ型NH4+分離濃縮」を連結した一連のシステムを開発します。これにより、活性汚泥法等既存技術での処理に比べ、処理に必要なエネルギー消費を大きく削減することもできます。
2022年度は、NOを高収率でアンモニアに変換するNTA反応器を試作すると共に、廃水中窒素化合物を効率的にアンモニアに変換する微生物群集構築とアンモニア濃縮プロセスの設計を行いました。2024年までに、NTAシステムのパイロットスケール試験機の基本設計と使用する吸着材量産法を決定すると共に、廃水中窒素化合物をアンモニア等として回収する技術の0.5m3/d規模での実証を行います。プロジェクトの最終年度となる2029年度には、200℃で排ガス中NOを95%以上 NH3資源に変換する技術の数百Nm3/h規模での実証と、廃水中窒素化合物をアンモニア等として回収する技術の5-15m3/d規模での実証を行いました。
私たちは、産業技術総合研究所、東京大学、早稲田大学、東京農工大学、神戸大学、大阪大学、山口大学、東京工業大学*、京都大学*、山形大学*(~2023年3月)、広島大学*、名古屋大学*(2023年4月~)、西部技研*(2022年4月~2024年3月)、協和発酵バイオ株式会社、株式会社アストム、東洋紡エムシー株式会社、株式会社フソウ、UBE株式会社(~2023年3月)という、国立研究機関、大学、企業の産学官が一体となったチームでこの研究を推進しています。(*印は再委託研究機関のため、NEDO文書等に現れない場合があります。)
図.当プロジェクトが実現を目指す窒素循環システム像(赤部分が開発対象)
図.当プロジェクトが実現を目指す窒素循環システム像(英語版)
2023年度 pdf資料 動画 ポスター発表
2022年度 pdf資料 動画
2021年度 pdf資料 動画
産業活動由来の希薄な窒素化合物の循環技術創出―プラネタリーバウンダリー問題の解決に向けて、プロジェクトマネージャー(PM)
国立研究開発法人産業技術総合研究所、首席研究員
川本 徹
グループHPORCID
ITmedia/MONOist連載